
秋の夜長は、晩酌が捗ります。そんなとき、やっぱり僕は日本酒が飲みたい。
僕がシェフを務める「MAEN(ミーン)」は、「日本酒と洋食のペアリング」をコンセプトとしたレストラン。僕と日本酒担当の御子柴さんがそれぞれゆかりのある徳島と長野の食材を中心に、1皿につき1種類の日本酒をペアリングしたコース料理を提供しています。
ペアリングと聞くと、敷居が高く感じるかもしれませんが、炊きたての白ごはんとお味噌汁を一緒に食べることだって立派なペアリングです。そう考えると、誰もが「これとあれは合う」って日常的にやっていることの延長なんです。
料理とお酒のペアリングというと、味や香りを合わせることを想像するかと思いますが、実は日本酒ならではペアリングというものがあります。
それは、温度差のペアリング。
例えば、日本酒のお燗と料理を合わせると、口の中で料理の温度が上がることによって、味や香りを開かせることができるんです。
これは、温度を上げることができる日本酒の大きな魅力です。日本酒のペアリングはなかなか奥が深いんです。肌寒くなってくるこれからの季節に、お燗とつまみで晩酌なんて最高じゃないですか。

今日は、そんな日本酒とのペアリングを堪能できるレシピを紹介させてください。どの料理も、晩酌をぐいぐいと進ませる、単品でも満足のしっかりとした味付け。日本酒は、すべて自然派のものを選びました。
3Stepで簡単に作れるので、ぜひ挑戦してみてください!
「MAEN」井戸雄太シェフ作 日本酒が進む3 stepレシピ
- 焼き茄子のとまとみそ和え
- 焼き寒さばと椎茸のリゾット風
- あなご醤油煮とクリームチーズの山椒風味
★スモーキーな香りが広がる「焼き茄子のとまとみそ和え」

1品目は、「焼き茄子のとまとみそ和え」。
秋と言えば、茄子ですよね。茄子とトマトって、めちゃくちゃ相性が良いんですけど、そこに味噌も加わったら、間違いないなと思って作りました。
焦げ香がするくらいしっかり焼いた茄子には燻製の香りが合うので、燻製系の調味料を加えて香りに奥行きを出しています。
〈材料(1人分)〉
とまとみそ……小さじ山盛り1
焼き茄子(焼いて皮を剥いたもの)……1本
大葉……1枚
けむパー塩……適量
けむパーゴマ……適量

1)焼き茄子を1cm角のダイス状にカットします。焼き茄子を作る際のポイントは、茄子を真っ黒になるまで焼いたあとに、そのまま皮を剥くこと。剥く前に水や氷に浸けてしまうと、せっかくの香りが飛んでしまうんです。熱っついんですけどね(笑)、頑張りましょう。


2)ボウルに1)の茄子を入れ、とまとみそと軽くけむパー塩を加えて和えます。

このとまとみそも美味しいんですよ。加えるだけでコクがすごく出ますし、トマトのちょっとした酸味もあって、甘×辛×酸って感じです。これだけでもお酒のあてになりますよ。


3)お皿にのせて上からけむパーゴマと刻んだ大葉をトッピングします。これで完成。ゴマはたっぷりかけると、香り+コリコリ食感が加わり、良いアクセントになります。

うん、思った通り。とろっとした茄子と、とまとみその旨味が相性バツグン。けむパーゴマと大葉も合わせて、ぜんぶ一緒に食べると、噛むたびに口の中が香りでいっぱいに! お酒がたまらなく欲しくなるやつです。


●大葉の爽やかさをフックに楽しむ「仁井田本家・にいだしぜんしゅ 生もと しぼり生」

合わせるお酒は、これがぴったりだと思います。
甘味や旨味がしっかりしているので、冷やでもお燗でも美味しい日本酒。最初の一杯ということで冷やにしてみました。
ペアリングとしては、調理の最後に加えた大葉がポイント。「仁井田本家・にいだしぜんしゅ 生もと しぼり生」には、少しだけ爽やかさがあって、それが大葉の青っぽさと合うんです。
お酒の風味が食材に寄り添って、大葉の香りをふわっと立ちあげてくれるような、寄り添い型のペアリングとでも言いましょうか。大葉の香りがフックになることで、料理とお酒がピッタリと合ってくるイメージですね。

あー……美味いっすね。ちびちびと飲んでいきたい。
それにしても、焼き茄子の焦げ香と、燻製調味料であるけむパーの燻製香。この異なるスモーキーな香りと、コクと旨味たっぷりのとまとみその組み合わせがたまらないですね。
このスモーキーさには、「仁井田本家・にいだしぜんしゅ 生もと しぼり生」の熟成感を合わせてもいて。燗酒にするとこの香りが強くなるので、もし余裕があれば温度によるお酒の表情の違いも楽しんでみてください。
★カリカリ食感のサンドを楽しむ「あなご醤油煮とクリームチーズの山椒風味」

晩酌のとき、手でつまめるおつまみがあると楽しいですよね。
この間、長野で買ったチーズの味噌漬けが美味しかったんです。チーズと味噌って、洋と和の組み合わせですけど、発酵物同士じゃないですか。だから、味噌を同じ和の発酵物である醤油に置き換えても相性良いだろうなって。
たまたま見つけたのは、あなごの醤油煮。これなら、醤油がクリームチーズと相性が良いし、あなごとクリームチーズの組み合わせは初めてで、面白そうだなと思って作ってみました。
〈材料(1人分)〉
あなご醤油煮……1/2缶
クリームチーズ……80g
実山椒……10粒
バゲット(スライス)……8枚
けむパー黒胡椒……適量
けむパーココナッツ……適量



1)事前に柔らかくしておいたクリームチーズにあなご醤油煮と煮汁、刻んだ実山椒を入れて混ぜる。汁を加えながら、実山椒の粒がなくなるくらいまで混ぜると良いですね。あなご醤油煮にはもともと山椒が入っていますが、香りを上乗せするために、実山椒も入れます。

お酒との相性も見ながら、ちょっと味見。うんうん、いい感じ。
これをもっと美味しいものしていきます。

2)スライスしてカリッと焼いておいたバケットに、1)をこんもりとのせる


3)最後に、けむパー胡椒、けむパーココナッツをかけて完成。ポイントは、食感の層を作ること。ねっとりしたあなごクリームチーズをカリカリのココナッツと、カリッとしたバゲットで挟むことで、最高の食感になります。
こうやって、1つの料理の中で対比的な食感を組み合わせると口の中が楽しいですね。カリカリとトロトロだったり、シャキシャキとふわふわを合わせたり、いろんな対比を知っておくと自分で簡単にアレンジできますよ。

ところで、このけむパーココナッツは、おすすめですよ。
ココナッツの甘みがありつつも、ちゃんと燻製香がついていて、しかもカリカリとした食感も気持ちいい。

料理中、何度もつまみ食いしちゃいました(笑)。
正直、これだけでずっと食べてたいくらい。お酒のあてとしても、優秀ですからね。気付いたら1袋なくなるので、まとめ買い必須です。


●蜂蜜のようなとろみと甘味がある「美吉野醸造・花巴 南遷」

合わせるなら、「美吉野醸造・花巴 南遷」。
南遷は、甘味と酸味のバランスがすごく良いんです。ちょっと蜂蜜っぽいとろみと甘味に、酸味が加わってるイメージ。
この酸味がポイントで、蜂蜜のような甘みも酸味が切ってくれるので、甘ったるくならない。甘いお酒が苦手な人でも、これなら飲める人が多いので、お店でもよく出しています。僕自身、大好きです。


ああ、うまい……これは絶対に、お燗ですね。
お燗の熱によって、口の中でクリームチーズがほどけて、香りがぶわっと広がるんです。実山椒やあなごの香りも、ぐっと強まります。さっき話した「温度差のペアリング」ってやつです。
カリカリの食感と相まって、手が止まらなくなりますよ。
★香りだけでも日本酒が進む「焼き寒さばと椎茸のリゾット風」

焼き寒さばの缶詰を食べたときに、ゆずの香りがしたんです。

そのとき、以前、豆乳ベースのリゾットをお店で出していて、上からすだちの皮を擦って入れていたことを思い出して。これだ! って思いました。
柑橘系の香りとサバの脂身、バターで作るリゾット。これを生クリームで作るとめっちゃ重くなるんですけど、豆乳で作れば少し軽さが出る。香りづけに椎茸なんて加えるとゴージャスだし、洗練されたワンランク上の味になります。
〈材料(1人分)〉
焼き寒さば缶……1/2缶
椎茸……1個
豆乳……100ml
ごはん……150g
鰹出汁……80ml
ディル、塩、けむパー胡椒……各適量
温泉卵(お好みで)……1個


1)椎茸をカットして、サバ缶のオイルでソテー。これによって、サバ缶の香りが椎茸に移ります。オイルは、後半に香りの調整のために使うので、すべてを使わずに適量で。足りない場合は、オリーブオイルを足してください。



2)サバを軽く油を切って入れ、身を崩したら昆布出汁(鰹出汁でも良い)と豆乳を入れます。豆乳を入れたら、沸かさないように注意。豆乳の成分が分離してぼそぼそとしてしまいます。軽く温めるくらいのイメージで。



3)炊いておいたごはんを軽く洗ってから入れて、和えます。水分を飛ばしながら、バランスが良くなるまで、塩で味を調えてください。お皿に盛って、好みでけむパー黒胡椒、ディルを加えたら完成。


先ほど少し話に出しましたが、盛り付けのときに缶に残ったオイルをかけましょうか(分量はお好みで)。どうしてもソテーの際に、ゆずの香りやバターの香りが飛んでしまうので、最後にオイルで香りを足してあげるのが良いかなと思います。


優しい熟成感が料理を支える「泉橋酒造・いづみ橋 生もと 黒とんぼ 山田錦」

ゆずとバターの香りがしっかりとあるので、これをじゃましないで、下から支えてあげるペアリングという意味で、「泉橋酒造・いづみ橋 生もと 黒とんぼ 山田錦」が良いでしょう。香りに寄り添うというよりは、香りをふわっと引き上げてくれる、縁の下の力持ちのイメージですね。
このお酒の特徴は、優しい熟成なんですよ。普通、熟成がかかるとメイラード反応と言って、茶色みを帯びた色に変化していくんですが、このお酒は急激な色の変化じゃない。やさしく、まろみが出るような熟成の仕方をしているんです。言い方を変えるなら、尖りがなく、味わいが優しく伸びていくので、料理が合わさったときに旨味を引き上げてくれる相乗効果があります。

これも、お燗がぴったり。お酒が入って顔が火照ってきました。
先ほどのクリームチーズとは違って、今度は「温かい+温かい」でトーンを揃えることで、料理とお酒がわかりやすくなじみます。お燗で合わせると、ディル、胡椒、ゆず、サバの旨みにお酒のやさしい熟成感がまとって、風味全体を底上げしてくれます。


温泉卵をのせて……こういう悪いこともしちゃいます。晩酌って、遊びの部分が楽しいなと思うんです。味をバッチリ決めるというよりは、アレンジしながら、だらだら食べて飲む。完璧じゃないことの楽しさが、晩酌の楽しさなのかな。
今日ご紹介した3Stepレシピも、自分なりのさじ加減で遊びながら楽しんでみてください。
これ食べたら、もう1品つくろうっと。

【店舗情報】
MAEN Sake pairing restaurant
TEL:050-3700-1617
住所:東京都渋谷区広尾1-16-1 EbisuHirooSquare 7F(恵比寿駅より徒歩3分)
定休日:水曜日
URL:https://www.instagram.com/maensakepairing/

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