酒職人・松本日出彦、武者修行の裏ストーリー。僕らの晩酌、福岡流

酒職人・松本日出彦、武者修行の裏ストーリー。僕らの晩酌、福岡流

僕は生まれ育った「松本酒造」を去り、
酒造りの武者修業に出ている。

声をかけてくれたのは、
オリジナリティを確立している
5蔵の蔵元たち。

彼らと日々、過ごす中で見えてきたこと。それは
日本酒がある地方ならではの景色、人との交流、
その土地にしかない「酒と飯」の旨い出合いだ。

福岡・白糸酒造で造らせてもらった
コラボ酒「田中松本」。
そして、僕がこよなく愛する博多の人気居酒屋
赤坂こみかんで作られた「拓ちゃん明太子」を。

この地ならではの、味わいのハーモナイズに
どっぷり酔いしれて欲しい。

大学の先輩・後輩でタッグを組んだ酒「田中松本」

2020年12月31日、僕は実家の「松本酒造」を去った。
今や、「松本酒造」というレールは絶たれ、酒造免許もなければ蔵もない。途方に暮れていた僕を救ってくれたのは、家族はもちろん、仲間たちの「心」でした。

「絶対に、現場は離れないほうがいい。一緒にお酒を造らないか?」
そう言って、手を差し伸べてくれたのは5つの酒蔵の同志たち。

熊本「花の香酒造」、滋賀「冨田酒造」、福岡「白糸酒造」、栃木「仙禽(せんきん)」、秋田「新政酒造」の皆さんだ。

大切なシーズン中に、部外者である僕が蔵に入り、酒造りに関わらせてもらえるなんて、極めて稀なこと。だけど、互いの違いを肯定し、高め合う感性を持っておられる5蔵の皆さんの現場には、新たな酒が生み出される可能性があるんじゃないか。そう思えるように。

各蔵では僕が今できる精一杯の力を注ぎ、貢献したい……。
僕にとっての酒造りの「武者修業」が始まったのです。

ここで紹介するのは、福岡・糸島「白糸酒造」でのストーリー。

8代目・田中克典との出会いは、僕が社会人入学した東京農業大学でのこと。僕が短大2年、彼が4年で同じ研究室だった。お互い、人見知りだから、あまり絡むことはなかったけれど、時を経た今、こうやってタッグを組ませてもらえることを非常に嬉しく思う。

白糸酒造と言えば、ハネ木搾りという昔ながらの手法を用いた「田中六五」が有名だけれど、純米大吟醸酒「白糸35」のニュースには驚いたね。じつは、令和2酒造年度の全国新酒鑑評会で金賞を受賞。これは本当に快挙なこと!

田中克典(下記、田中):
ホントに嬉しかったですよ。原料米はもちろん地元・糸島産の山田錦100%です。酵母は9号酵母を使用し、35%まで米を磨き上げるという昔ながらの造りを徹底。

香り(吟醸香)を引き出すためのアルコール添加は一切行わずして、どこまでもキレイな味わいになるよう挑戦しましたよ。

松本日出彦(以下、松本):
白糸酒造もそうだけど、僕が思うに、武者修業させてもらっている5蔵ともに、昔ながらの伝統製法を掘り起こし、地域性を尊ぶ酒造りを行なっておられる。原点に還りながらも、味はクリエイティブ。

ハネ木搾りが行われる木造部分だけを残し、コンクリート打ち抜きの建物に全面改装。昔ながらの造りを継承する一方で、味を数値化するなど、最新テクノロジーを導入。伝統を次世代へ紡ぐための革新だ。

田中:
僕が2009年に実家に戻り、建物も機械も全て最新にしたけれど「ハネ木搾り」だけは変えなかったね。

発酵を終えた醪(もろみ)を搾り濾過する作業では、昔ながらの「ハネ木搾り」を用いる。酒袋に詰めた醪(もろみ)を、槽(ふね)というタンクの中に並べる。そこに蓋をして、天井から吊るした大きな木(ハネ木)と、重石を使い、テコの原理を利用しながら、ゆっくり搾っていく。

松本:
田中くんのお父さんが量産思考タイプだったら、江戸時代から続く「ハネ木」は廃棄され、横型の油圧圧搾機を採用していたかもしれない。今までずっと変えなかったことに、心からリスペクトですよ。

田中:
残したいというか、残ったというか……。最新の圧搾機は高価だから、資金がなくて買えなかったんだと思うよ。

松本:
この蔵に残っている価値観、そして空気感そのものが伝統だし、造り手の美意識が必ずや酒に表れるのだと。今回、造らせてもらったコラボ酒「田中松本」はまさにそれ。ある種、特異だったよね。

田中:
仕込み水に使う、糸島の水、そしてハネ木を使った伝統の搾り方だけが、ウチ流。そのほかは全て、日出彦さんが主導したよね。

松本:
今回、お世話に立っている5蔵の中で一番自由に酒造りをさせていただきました。

酒米は兵庫 東条・西戸産山田錦のみ。「松本酒造」時代、米作りを行っていた田んぼの、隣の畑の酒米を使わせてもらいました。酵母も、米麹の作り方や、醪(もろみ)の管理も仕込みの配合も、全て僕が思うようにやらせてもらったのですが……。

思いの外、「田中六五」の味(!)だったよね。

田中:
いや、荒走り(最初に出てくる搾りたての酒)を初めて飲んだ時、あのなめらかな質感や、ふくよかな旨みに「めっちゃウチの酒やん」と(笑)。

松本:
味わいだけを突き詰めると、水の要因が大きいのかもしれないけれど……。あとで開栓して、もう一度確かめましょうよ!

詳しくは「ONESTORY」にて
〜玄界灘に突出した半島で醸す。人生初、松本日出彦は「槽」に乗る〜
https://www.onestory-media.jp/post/?id=3970

僕がこよなく愛する居酒屋で、明太子をつまみにコラボ酒を

糸島では「白糸の滝」を一度見に行ったきり。観光っぽいことは一切してない。だけど昼には「牧のうどん」の、柔らかいうどんの虜にもなったし、「かいの 糸島本店」の鶏白湯スープ仕立てのちゃんぽんも、かなり僕好みだったなぁ。

武者修業では、麹造り・仕込み・醪(もろみ)のチェック・搾り……と、同じ酒蔵に4度は足を運ぶ。何が嬉しいって、蔵のスタッフの皆さんと仲良くなれること。

仕事が終われば、田中くんと蔵で夜な夜な、飲みながら語り合う日々。このご時世だから街に出歩くことはほとんどなかったけれど……。じつは僕たちが好きな居酒屋が博多にあるんです。

いつも快活な店主の拓ちゃんこと、末安拓郎さんが営む「赤坂こみかん」だ。

今日は、常連でもある田中くんと一緒に再訪することに。僕が拓ちゃんの店を愛してやまない理由は多い。

まずは、拓ちゃんの存在。彼は、人ったらしの鬼(笑)。これ褒め言葉ですよ! そして、スタッフも常にイキイキと元気で気持ちいい。

博多を訪れたなら必ず、彼らに会いにこの店へやってくるのです。

カウンター席がメインの店内。親しみやすい雰囲気ながら、食材は地元をはじめ九州産オンリー。ここへ来たならば、ローカルかつホンモノの味を知ることができる。

だけれど、価格はとても良心的。「ウチはカジュアルな居酒屋」と拓ちゃんは笑うけれど、味・技・スタッフの心意気も含め、料理屋としての矜恃を感じるのだ。

拓ちゃん、お久しぶりです! 今日は僕たちのコラボ酒「田中松本」を持ち込ませていただきました。一緒に、味見どうですか?

拓ちゃん:
いいですね〜。でも、まずはおふたりで記念の一献を。つまみには、ウチで作った明太子、食べてくださいよ!

松本:
ありがとうございます、拓ちゃん。そして田中くん、乾杯!

田中:
(お酒を口に含み……)日出彦さん、美味しいっすね〜。キレイな味わいですし、僕たちどちらの個性も出ていますよ。

松本:
搾りたてのときは「田中六五」らしい、滑らかな質感やまろやかさが全面に出ていたよね。
今こうして飲んでみると……。かつて僕が米作りをしていた隣の田んぼの、山田錦らしい旨みが味わいの奥のほうにグッとくるよね。

田中:
お互いの個性が重なり合った味。いい落とし所だと思いますよ。しかも僕が大好きな、「拓ちゃん明太子」と一緒に味わえるなんて、最高っす。

松本:
ひと切れがデカイね! 拓ちゃん、いただきます。粒が大きくってプチプチ感、スゴいっす。

拓ちゃん:
特大サイズの明太子を使っていますから! そして無添加にこだわりました。

松本:
この「拓ちゃん明太子」は辛みが程よく、ナチュラルな旨みを感じます。清々しい味わいだから、僕たちの酒のキレイな味わいともすごく相性いいですね。

拓ちゃん:
そう言っていただけて嬉しいですね。おふたりのコラボ酒「田中松本」に、ウチんとこの「拓ちゃん明太子」もコラボさせてくださいよ!

松本:
マジですか、拓ちゃん。ありがとうございます!

「赤坂こみかん」で味わえる単品も素材感が強い。この日の造り盛合せは、長崎・壱岐のマグロ、佐賀・唐津の赤ウニ、大分の鱧、クジラベーコン。
天ぷらは、揚げたてを1ネタずつ供する。漁師の清水さんから届いたばかりの活・車海老、福岡・小呂島(おろのしま)のキス、佐賀・白石のレンコンなど素材は全て九州産。

ちょっと面白かったことがあって。田中くんが「僕はいつも、拓ちゃん明太子1本ペロッと独り占めだよ」って言ってたこと。福岡の人たちはみんなそうなのか?(笑)

でも、「拓ちゃん明太子」に限っては、京都人の僕にとっても納得できるおいしさ。まず、辛すぎないから素材らしさが引き立っている。しかも、じんわりくる辛さとナチュラルな味わいが心地よくって。さらには、奥のほうに優しい旨みを感じるあたり、「田中松本」の味わいのトーンと似ているのだから。

これこそが福岡という地で過ごし、武者修業させてもらった、おいしい裏ストーリー。

福岡・糸島「白糸酒造」で造らせていただいた、コラボ酒「田中松本」と、田中くんも僕も、愛してやまない拓ちゃんが作る明太子との調和を、ぜひ多くの方に味わっていただきたい。

写真提供/ONESTORY

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松本日出彦
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福岡・白糸酒造とのコラボ酒「田中松本」は、互いの個性が重なり合ういい仕上がりに。相棒には、博多の居酒屋「赤坂こみかん」店主・拓ちゃんによる無添加の明太子を。優しい辛味とナチュラルな風味が、僕たちの酒の、まろやかでいてクリアな味にスッと寄り添ってくれるのだ。

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松本日出彦
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まず、明太子そのものがデカい!粒も大きくしっかりしていて食べ応えがある。拓ちゃんの明太子づくりは無添加を徹底。塩分も控え目だから、じんわり広がる優しい辛味とナチュラルな旨みがずっと続くのです。

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