焼肉もナチュールワインみたいに、リラックスして、カジュアルに

僕の実家は焼肉屋です。親戚も、焼肉屋。一族そろって、みーんな焼肉屋なんです。子供の頃から、焼肉に囲まれて育ちました。
家も焼肉屋なのに、たまの外食に連れて行ってもらえるのも親戚の焼肉屋。僕にとっては「外食=焼肉」で、家族でファミレスに行くのが夢でした(笑)。それくらい焼肉尽くしで育ちましたが、焼肉ではない外食企業で働いている今でも、僕はずっと焼肉が大好きです。

そんな僕が幼少期から間近に見てきた焼肉業界に、最近、価値観の変化を感じています。
最近では焼肉というと、一部の高級路線ブームの「リッチでゴージャス」なイメージが定着していたんですが、ちょっと潮目が変わってきた。肩肘張らずに、もっとリラックスして、大人っぽくカジュアルに楽しんでもいいんじゃない?なんて空気を感じるんです。
たとえば、それまでは高級なレストランでグラスを揺らすイメージの強かったワインの世界に、ナチュールワインの風が吹き込んで「ワイン」のイメージが軽やかなものに変化したみたいに。
焼肉も、自然体で楽しめて精神的にも胃袋的にも疲れないものが、今のみんなの気分にフィットするよね、という考え方が広まってきています。

僕はこのムーブメントを「焼肉第4世代」と呼んでいます。令和に始まった、まさに新世代の焼肉です。気の許せる、同じ「いいね」を共感・共有できる友だちとちょっといいお肉を焼いて、おしゃべりしたり、好きなお酒を飲んだり。そうやって心地よく過ごす時間こそが、何よりの贅沢。「何を食べるか」以上に、「誰とどうやって食べるか」を大切にしたい気分です。
だからこそ、おうち焼肉も今こそアップデートできるんじゃないかと思っています。今日はそんな「第4世代」流におうち焼肉を楽しむためのポイントを僕に語らせてください!
令和の焼肉「第4世代」は、ゴージャスな第3世代へのカウンター⁉
「いやいや、ちょっと待って! 第1世代も第2も第3も知らないんだけど⁉」という方のために、先に日本の焼肉業界の歴史を少しだけ説明します。
まず、日本の焼肉業界の創成期は戦後、高度経済成長期。まさに僕の両親たちが、がんばっていた時代です。当時はオモニ(母)の味を大切にした、伝統的な韓国料理と焼肉を出すスタイル。この頃は、肉の種類はタン、カルビ、ロースくらいでした。
その後、バブル期にかけて高級路線のお店が増えてきます。これを僕は第1世代と呼んでいます。たとえば、デザートにアイスクリームが出たり、帰りにガムをくれたりするようなお店。
さらにバブル崩壊後に第2世代が登場。ファミリーでも訪れやすいお手頃な焼肉屋さんがたくさんできたんです。無煙ロースターが開発されて「焼肉屋に行くと服が臭くなる」問題もここで解決。焼肉が一気に身近な存在になりました。
2010年代に入ると、第3世代の焼肉ブームが。これが今も続いている、リッチでゴージャスな焼肉の世界です。
これまでカルビやロースと呼ばれていた部位の一つ一つを「シンタマ」「ヒウチ」「ラムシン」など細かく呼び分けるようになり、希少部位ブームが巻き起こりました。SNSの拡散力もあって、会員制のお店や“映える”お肉を出すプレミアムな焼肉屋がステータス的な存在になってきた。肉にウニどーん!とか、肉寿司とか、見たことある人も多いのでは?
そして2021年。マニアックになっていく肉の細分化もおもしろいけれど、もっとカジュアルに、焼いたお肉の旨さをみんなで楽しもうっていうのが、さっき話した第4世代なんですね。
焼肉の三大要素「肉・タレ・酒」の無限ループを目指そう
第4世代の焼肉は、リラックス感が大切。だからこそ、おうちで焼肉を楽しむのもおすすめなんです。ここで、おうち焼肉をぐんとレベルアップさせるための、新しい焼肉の極意を僕なりに提案させてもらいますね!
僕が焼肉において重要だと思っているのは、肉・タレ・酒、3つのマリアージュ。この組み合わせさえしっかり考えれば、お肉は超高級な牛肉じゃなくてもいいし、焼き方なんてYouTubeで動画見てまねっこすればそれで充分。大事な3要素についてだけ、少し解説させてください。

まずはお肉。僕のイチオシは「みちのく日高見牛」です。古くから畜産が盛んな宮城県東北部・登米市の「日高見牧場」で育てられる黒毛和牛と乳用牛の交配種は、深い旨味を持つ赤身に融点の低い脂がきれいに入っていて、サラダのように毎日食べたい美味しさ。部位でいうと、イチボやリブロースなんかが焼肉向きですね。

次にタレ。市販の焼肉のタレは甘味が強いものが多いけど、僕がおすすめしたいのは「辛口・淡麗」でさっぱりしたもの。和だしベースのタレとわさびで食べたり、ポン酢ベースのタレに一味唐辛子を加えたりと、薬味やスパイスを組み合わせるとさらに幅が広がりますよ。
大阪・堺の老舗和風香辛料専門店「やまつ辻田」さんの石臼で挽いた鷹の爪純粋種の一味や山朝倉山椒があると、一気におうち焼肉のレベルを引き上げてくれます。

お酒はビールでも、今人気のレモンサワーでも、ナチュラルなワインでも、マッコリでも何でもいいけれど、合わせ方にはポイントがあります。それは、タレとお酒の重さをそろえること。濃い味のタレにはどっしりしたお酒が欲しくなるし、軽やかなお酒を飲みたければ、タレもさっぱりしたもののほうがいいってことです。
マリアージュと聞くと難しそうに感じるかもしれないけれど、心配ご無用。たとえば、フレンチドレッシングみたいなビネガー系の酸味のあるタレに、柑橘っぽいニュアンスのある赤ワインを合わせてみる。そうやってタレにない要素をお酒で補完したり、香りのテイストをずらしてみると美味しさが増幅したり、新しい発見があるはずです。

焼けた肉にタレをつけて頬張り、お酒を一口。肉・タレ・酒の組み合わせがぴったりはまると、自然と箸が動いて三角食べみたいにテンポよく食べたくなるんです。肉・タレ・酒、肉・タレ・酒……ああ、幸せ。っていうのが理想的。
そうやっていくらでも食べられる、食べ飽きないスムースさを目指すのが究極のおうち焼肉。これから僕ら「肉にっくクラブ」では、焼肉はもちろん、すき焼きやしゃぶしゃぶ、ステーキ。牛肉だけに限らず鶏、豚、羊、ジビエなどなど、様々なジャンルに精通している方々と、一緒になってお肉の楽しみ方を共有していく予定なのでそちらもお楽しみに!

第4世代では、焼肉に合わせるお酒は今らしくアップデートされ、味付けや料理も伝統的な韓国料理に縛られずぐんと自由になりました。でも一方で、ある意味では僕の両親が昔やっていた焼肉屋のような原点に戻りつつあるのかもしれません。難しいこと抜きに、みんなでわいわい焼肉を囲もうよ、って。
最近は自宅でも扱いやすいサイズで本格派の卓上ロースターも揃ってるし、たまにはちょっといいお肉でも買って、家族や友だちと、おうち焼肉に挑戦してみてください。
用意するものはシンプルでいいし、難しく考える必要はありません。焼いたり飲んだりしながらゆっくり話してたくさん笑えば、きっと充実した週末になりますよ!

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