辛口好きは、100人中ひとりか?
世の中、うすら甘いもんが多すぎると思いませんか。それが一般ウケする味なのか。少なくとも私は、こんなうす甘いもんで酒が呑めるかベラボウメと思う。「ウチの辛口?100人中ひとりに響けばいいのよ」と、「清左衛門」の北さんは言うけど、辛口派もっと多いと思うのです。

「清左衛門」は頑固親父の正反対の…?
私が、「清左衛門」を知ったのは10数年前。「とんでもなく美味しいお茶漬けがある」という噂を耳にした。その名も「贅沢茶漬」。取り寄せてみると、本当にとんでもなく旨かった。穴子に昆布、ゴボウにちりめん山椒が折り目正しく詰められて、何と端正な!とその姿に惚れ惚れした。そして昔ながらのしょっぱい佃煮は、頑固オヤジが代々守っている味に違いないと思った。

ところが、だ。お店に行くと、スリムでオシャレでおしゃべり好きな北佳子さんがニコニコと。聞けば、叔父さんが営んでいた料亭のお土産を作ってくれないかと頼まれて、お母様・正子さんと2人で、「家で普通に」佃煮を作ったら大好評で……。1996年に甲子園に暖簾を掲げたという。辛口は北家の味らしい。

「無添加純正」この看板に偽りなし!
そう、「清左衛門」の佃煮は、きっぱり辛口。そりゃあもう正真正銘、掛け値なしの辛口だ。減塩、低カロリーが叫ばれる健康ノイローゼ気味な世の中で、唯我独尊のこのしょっぱさを「野蛮かな」と北さん自身が笑うけど。いやいや。添加物や化学調味料まみれの食品のほうがよほど、と私は思う。
しかも「清左衛門」は、辛口と共に、「無添加純正」を高らかに謳う。無添加を標榜しつつ、“何とかエキス入り”はよくある話だ。その方がお手軽にできるし、何より原価を抑えられるからね。けれども北さんは、「自分に恥ずかしいことは死んでもできない!」という潔いお方。この男気、いや清廉潔白にしてチャーミングなお人柄に、私はホレこんでしまっている。
そんな北さんだから、「清左衛門」は、断固として決然と純粋に正しく、隅から隅までズズズイーッと本気で無添加純正なのだ。
恋する乙女のように
キッチンを覗くと、無添加純正が証明される。この日は、看板商品「贅沢茶漬」のちりめん山椒を炊いていた。ちりめんは宮崎産。「しっかり乾いてるけど弾力がある。パサパサはあかんけど軽い仕上がり。宮崎のは清潔で気品があるでしょ」と北さんは、ちりめんじゃこをうっとりと眺める。この人は、すべての食材を恋する乙女のように語る。
有機のゴボウも、穴子もお豆さんも、昆布や生姜、紅鮭も、酢や塩や醬油の調味料に至るまで、選びに選んで惚れ込んだ逸品ぞろいだから。ちりめんも、何と水なしで、小豆島の杉桶仕込み醬油と飛騨の平瀬酒造の特別純米「久寿玉」という吞んで美味しいエエ酒を惜しげなくドバドバと注いで炊く。


材料が一番大事
「一番大変なのは材料集め」と北さんは言う。確かにいまの時代、真っ当な食材は最高の贅沢品だ。「昆布も紅鮭も穴子も国産のいいものが少なくなってて。でも、無添加だと食材の味がストレートに分かるから、いいものじゃないとね」。経営者としては頭の痛いところ。「穴子なんか原価計算したら切なくなるから、いつも途中で止めるのよ」と笑いつつ「質を落とすくらいなら店を止めるわ」と、またまた潔い台詞が飛び出す。

食への信頼揺らぐ世の中で、絶対的信頼を寄せられる北さんと出会えたことに感謝しつつ、ちりめん山椒をアテに飲む冷や酒の旨いこと! 咬むほど味がじゅんわり染み出るから、ちりめんひと摘み、鮭茶漬けの鮭一片で、酒1合は呑める。案外コスパいいのよね。あ、穴子は明日の昼に取っておこう。
そうめんってこんなに美味しいものなんです!

昨夜、取っておいた「清左衛門」の穴子茶漬けの穴子一切れ。刻んでめんつゆに投入。夏の昼食の定番、あっさりしたそうめんが、グッとパワフルになって、私の夏バテ防止食“パワーそうめん”の出来上がりだ。
しかし、「清左衛門」」の穴子と合わせるそうめんはそんじょそこらのものではいけない。我が家の夏の顔、奈良「三輪山勝製麺」の“一筋縄”のおそうめん。そうめんなんて何でも同じと思っている、そこのアナタ、大間違いですよ!
たとえば、昨年、とある青年に我が愛するこの特別なるそうめんをお贈りしたところ、「今までそうめんっていただきものを漫然と食べていて、産地も会社も意識したことなかったんですよ。これは全然まったく完璧に違う!!そうめんって美味しいものだったんですね!!」と、大層喜ばれた。機械による大量生産品しか食べたことのない人なら、「これがそうめん?」とひっくり返る。高級な極細麺をお好みの方でも、「おおっ、これは?」と目を見張るはず。

お茶の達人に聞いた「美味しさ」の答え
私が、「三輪山勝製麺」の6代目・麺匠、山下勝山さんと知り合ってもう30年になる。当時から山下さんのおそうめんは格別に美味しいなぁと思っていたが、年々美味しさが増していき、ある年、「今年のはちょっと違うねん」と新作が届いた。
“一筋縄”と命名されたそのそうめんは、ツヤツヤと輝き、ふわりとした上品な舌ざわりで、奥底にたおやかなコシがあり、小麦粉の芳しい香りが鼻を抜け、喉ごしはツルリと心地よいという、驚天動地の出来だった。
「そうめんは、品評会のために細さを追求してきたんや。そのためにグルテンで延ばす。味のないお麩と同じやと思ってな」。細い=美味しいではない。美味しさってなんやろと、山下さんは考えた。
お茶の達人に「美味しさとは」と禅問答のような問いかけをしたら、「お茶は渋さの中の甘みが旨さになる」との答え。「では、俺は小麦粉の甘さを旨さに変えなければならん。そのためには。グルテンを少なくしよう!」。そうして、常識破りの薄力粉を使うことにしたという。
不可能を可能にした男
そうめんの原料は、小麦粉と塩と水。そうめん用の小麦粉は、細くてもコシを出すために、中~準強力粉を使うのが一般的だ。ところが山下さんは、和菓子用の上質な薄力粉を使った。
「手延べにこだわるから、どうしても途中で麺が切れてしまう」。それでも諦めず、とうとう薄力粉から手間暇のみでコシを生み出した。「不可能を可能にしたんや」と、山下さんはドヤ顔で言ったっけ。

さらに、室町時代から伝わる、油を塗って乾燥を防ぐ方法に疑問を持った山下さん。油が酸化する臭いをなくしたいと、油の代わりに吉野葛を用いた。おかげで見た目も艶やかで美しい麺が誕生した。

“一筋縄”は、「美味しい麺を作りたい」という想いを胸にひと筋に、常識を打ち破り、不断の努力が生み出した、麺匠の到達した芸術品なのだ。

そうめんは細くなくちゃ―という向きには、無理強いはせんが、味本意で選ぶなら、“一筋縄”。中でも、最近の私のイチオシは、平そうめんだ。平たく押しただけで、何でこんなに旨いのか。稲庭うどんや、きしめん好きなら、“一筋縄”シリーズの平そうめん、平うどんを是非!
「美味しさ」ひと筋が共通点
「清左衛門」の北さんと、「三輪山勝製麺」の山下さん。共通するのは、「美味しさ」ひと筋の想いと、決してブレない姿勢。そしてお二人が口を揃えたのは「一番大事なのは原料」という言葉。
妥協のない2つの味を一緒に楽しむ私に、今年も夏バテはない。
とことん贅沢な素材。丁寧な手作り。食通向けの辛口贅沢茶漬、徳用パック。お茶漬けがメイン料理に変わってしまう程の豪華な素材達。清左衛門ファンの間では、ごちそうの後のごちそうと謳われている。贅沢、極まりない!