次の世代に僕は「おばあちゃんの役」を果たせるかな? 愛すべき食を未来につなぐために今できること

次の世代に僕は「おばあちゃんの役」を果たせるかな? 愛すべき食を未来につなぐために今できること

僕には忘れられない大好きな風景がある。

学校帰りにおばあちゃん家に寄ると、
いつも夕陽が差し込む時間帯で
ケーキと一緒に玉露のお茶を出してくれた。

それがとっても美味しくて、知ったかぶりに
「おばあちゃんこれ玉露やろ?」って聞くと、
「まあ修ちゃんわかるのね!」って嬉しそうに
褒めてくれた。

ケーキと日本茶。和と洋が当たり前に
共存する風景はあまりに日本的で、
今思えば、あの瞬間が僕の原点だったのかもしれない。

「美味しい」に答えなんてない。そもそも「美味しい」ということを評価すること自体が難しい。世界に一人のわたしが愛する、大切な食。それが、GOOD EAT(グッドイート)。

特集「わたしのGOOD EAT」では、この世にあまた存在する美味しいものたちを「美食」という枠に閉じ込めずに、一人ひとりの「愛」という軸で語ってもらう企画です。

今回は、GOOD EAT COMAPNY代表の楠本修二郎さんに愛すべき食についてお話を伺いました。

ケーキと日本茶。幼い頃の忘れられない風景

小学校5年生のときに、突然の引っ越しが決まり、わが家に友達が集まってくれてお別れ会をした。朝からみんなで野球をやったり、ローラースケートレースをしたり。その後で、お昼にみんなと一緒に食べた母のカレーライスが忘れられない。

剣道の試合で負けた後、地元博多「因幡うどん」で泣きながら食べた、丸天うどんのジュワーっと滲み出るあのお出汁の味。学生時代にバックパックで旅していた時のシンガポールの屋台街、社会人になって社長にはじめて連れて行ってもらったあの高級フレンチ、そして初めて出場したトライアスロンで、ヘロヘロになりながらゴールした時に、みんなに祝福されながら食べたロタ島のバナナ。

僕にとってのGOOD EATは、記憶の中に存在する、ありとあらゆる人とのつながりや絆に他ならない。そんな自分の過去を遡りながら、もう一度未来を見つめるとき、「人はいつ、誰と、なにを、どんなふうに食べるか」の連続の中で、その人の素敵な人生が形成されていくのだなと思うのです。

そんな僕の記憶の中でも、最も忘れられない大好きな風景がある。おばあちゃん家に遊びに行った時に、必ず淹れてくれた玉露のお茶だ。

福岡の城下町に佇む大正建築の小さな一軒家。学校帰りにおばあちゃん家に寄ると、いつも夕陽が差し込む時間帯で、ケーキと一緒にいただくお茶がとっても美味しかった。

あまりに美味しいので、飲んだこともないのに知ったかぶりに「おばあちゃんこれ玉露やろ?」って聞いたら、「まあ修ちゃんわかるのね!」って嬉しそうに褒めてくれたおばあちゃん。

貿易会社を経営していたおじいちゃんがアジアに出張した際に買ってきたという西洋や東南アジアの食器やインテリア、そして夕陽が映えたあの空間や時間とともに、僕の大切な風景(GOOD EAT)になっている。

今思えば、おばあちゃんの家には今の僕をつくってきたアイデアの元が詰まっていたのかもしれない。洋風ケーキと日本茶、和風の一軒家と洋食器。いろんなコンテンツが融合していくのが日本の特徴であることに気付かされた瞬間。

そんな当時を懐かしく振り返りつつ、僕たち日本人にあるGOOD EATを生み出す源泉を過去から探りながら、食の未来をデザインする旅に出てみようと思う。

日本の「美味しさ」はどこから生まれた?

飛鳥時代のリーダー聖徳太子以来、日本の国づくりのコンセプトは「和をもって尊しとなす」。あらゆるものを受け入れて調和する文化的なアイデンティティは、この時代から変わっていない。そして、栄西禅人が南宋からお茶を持ちこんだことが起点となり、懐石や華道などの美意識が生まれ、ありとあらゆる生活文化が開花していった。

地政学的には、黒潮の存在が大きい。世界第二位の距離を流れる海流は、ベルトコンベアーのようにアジア中の食文化を琉球経由で日本に届けてくれる。太平洋が広がっている南方・東方には隣国が存在しないという唯一無二なこの島国の地政学的特徴により、独自の食文化が留まる条件が揃っていたのだ。

明治維新以降はいろいろな洋食文化を受け入れ、戦後にはイタリアン・フレンチから、ありとあらゆる食が日本で深く育まれるに至っている。八百万の神という言葉に象徴されるように、神仏混合を良しとしながら、漢字からひらがなカタカナを生み出し、多様な文化を受け入れてきた日本。

こういった歴史的側面(時間軸)、地政学的側面(空間軸)、思想的側面(哲学・文化軸)などの面で、多様性を調和させながら深化していける環境と条件が、日本の美味しさを育んできたのだなと感じる。「和食」とは、単なるジャパニーズ・フードという意味を超えて、さまざまな価値観をリスペクトし、ハーモナイズさせていくことに和食の本当の価値があるんじゃないだろうか。

日本は今、コロナ禍により飲食店が大変。このままでは多様性に富んだ日本の食文化の多くは、誰にも気付かれず、この5年以内に人知れず消滅していくことになるだろう。地方の名店など飲食店だけの危機では決してない。

ものづくりの匠が息づく町工場、地域の風土を守ってきた農家さん、そして戦前生まれのおばあちゃん達の生活の知恵。これらを次の世代へ残すためにアクションできる期間はもうわずか数年しか残されていないのだ。

次の世代に僕は「おばあちゃんの役」を果たせるかな?

これから先、日本はいよいよ人類史上未曾有な人口減少社会となる。だからこそ、このタイミングでやれることを、食関係者のみならず、AIなどテクノロジーも含めた多様な技術を結集し、日本の食を愛する多くの人たちで連携して、日本の食文化のこれまでと、これからの未来について、みんなと考えたいと思っています。

世界人口が90億人を超えて、日本の人口減少が顕著になる2040年。今の小学生〜高校生の年代が必ず世界の活躍の中心になるはずだ。僕たちは今、20年後の彼らのためにどんなGOOD EATを残せるのだろう。

食は、ただのビジネスでとらえるべきことでは決してない。日本の、世界のGOOD EATを未来に残し、育んでいくべき文化や生活基盤として、未来の人類にその価値をシェアする。その大きな流れをつくっていくことで、世界の食のサスティナビリティに貢献したいと思っています。

日本の、世界のGOOD EATを見つける旅を、またみんなではじめよう。引っ越しの時のカレーライスみたいな、トライアスロンのバナナみたいな、そしてあのおばあちゃん家の玉露とケーキのような。

そして20年後、きっと世界のリーダーに育っている今の小学生〜高校生たちと一緒に美味しいものを食べながら語り合いたいな。その時、僕はおばあちゃんの役を果たせるかな?(笑)

20年後のそんな時間が、更にその先の未来のGOOD EATにつながっていくと信じて。Ciao❣️

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