適当に切った食材を、スンドゥブのスープにぶち込む。その香りが、仕事から私を解き放つ。

適当に切った食材を、スンドゥブのスープにぶち込む。その香りが、仕事から私を解き放つ。

漫画家になって約5年。
漫画を描くことを主軸に生活が回っている。

今日完成した原稿と、まだ未完成の原稿を
とりあえず棚に仕舞ってスーパーに買い出しに行く。

疲れと空腹で早歩きになりながら、
目についた食材を次々にカゴに放り込んでいく。

自宅に着くと、食材を適当に切って、
スンドゥブのスープにぶち込む。
その香りが仕事から私を解き放つ。

一瞬だけ仕事のことが頭をよぎらなくなり、
海外ドラマを流しつつ、
やっと平穏な気持ちで夕食にありつくのだ。

「美味しい」に答えなんてない。そもそも「美味しい」ということを評価すること自体が難しい。世界に一人のわたしが愛する、大切な食。それが、GOOD EAT(グッドイート)。

特集「わたしのGOOD EAT」では、この世にあまた存在する美味しいものたちを「美食」という枠に閉じ込めずに、一人ひとりの「愛」という軸で語ってもらう企画です。今回は、漫画家の板垣巴留さんに愛すべき食についてお話を伺いました。

「板垣巴留さん、あなたにとってのGOOD EATは、なんですか?」

時短で美味いのが、私にとっての自炊の正義だ。

最近では「空腹は実は体にいい」とか「集中力を高める」とか、空腹推奨の風潮があるようだけど、私は何よりもその状態になった時の攻撃的な自分を恐れている。とにかく腹が鳴ったらすぐに食事に取り掛かるのが、私の中の平和を保つ秘訣なのだ。

でも思い返してみるとコンビニやスーパーの出来合いで済ませることは、あまりしていない。こだわりがあるわけではないけど、家庭環境で食べてこなかったものを、結局は大人になってもあまり口にしていないだけだと思う。

漫画家という職業に就いてから、約5年。漫画を描くことを主軸に生活が回っている。今日完成した原稿と、まだ未完成の原稿、とりあえず棚に仕舞って、スーパーに買い出しに行くのがお決まりだ。

考えてみたら私の食事はもうこの時点で始まっていて、私の日常にとても大切な役割を果たしてくれているように思う。

「3ページ目のあのキャラはもっと良い表情になったはず。描き直そうかなぁ。スタッフさんが描いたあの背景はすごかった。明日中に見開きを完成させなくては。というか次の話の構成どうしようか…。」

後悔や不安や期待が頭の中で回り、スーパーをウロウロと歩き回る。疲れと空腹で早歩きになりながら、目についた食材を次々にカゴに放り込んでいく。目につく、ということは本能が欲している栄養分なのだろう(たぶん)。会計を済ませて自宅まで足早に帰りながら、頭の中は悲喜こもごも。空腹もピークに差し掛かる。

この時間の攻撃的な自分が、私は怖いのだ。肩がぶつかったら相手に舌打ちでもしそうなほど気性が荒くなる。できないけど。お腹が減った状態で、仕事の緊張が解れないままの脳みそで色々なことを考え、次週のストーリー作りに悩む。この荒々しい時間が実は私には必要で、体に負荷がかかった状態でこそ良いアイデアが浮かんだりする。

自宅兼職場に着くと、ネギやキノコなどの食材を適当に切って、スンドゥブの素を入れた鍋にぶち込み、やっと一息つく。

良い匂いと共に豚肉の色が変わってきたら、一瞬仕事のことが頭をよぎらなくなり、海外ドラマを流しつつ、器に盛って、やっと平穏な気持ちで夕食にありつくのだ。

食べることだけが「食事」じゃない、という考えは親を見て教わったことの一つだ。私が仕事のことで頭をいっぱいにさせながら食材を買うように、母も家族の体調、野菜の旬、値段との折り合いで頭を回転させて、本気の目で買い物をしていた。

うちは両親ともに食事を大切にする家庭だった。母がお昼ご飯を食べながら、「夕飯は何がいい?」と家族に聞いて笑われたりしていた姿も、今なら理解できる。仕事も食事も生活の一部で、だからこそ出来合いのもので済ませるのではなく、ちゃんと体と頭を動かして栄養をとるべきなんだと思う。

さて、私は熱々のスープまで飲み干して、落ち着いた頭でまたぼんやりと考える。

「さっき浮かんだアイデア、もう少し捻った方がいいな」

腹八分の頭は一番冷静なので、食器を洗ったり後片付けをしながら、次のストーリーを再構築。食材の買い出しからここまでが、私にとっての「食事」だ。

仕事のある日はあまり手の込んだ調理はしない。丁寧に調味料を測ったり、多くの調理道具を使うのは時間に余裕がある時だけだ。

忙しい日のお決まりメニューであるスンドゥブは、その点とても理にかなっていて、いつも助けられている。スーパーに行けば、豆腐のコーナーでスンドゥブの素がパウチで売られているので、それを鍋に開けて、切った食材を入れて、煮立たせたら出来上がりだ。

野菜もとれるし豚肉を入れればスタミナも補給できて、足りない時は冷凍ご飯を解凍すれば立派な夕飯になる。贅沢をする気分の日は、アサリの水煮の缶詰を汁ごと入れるとさらに美味しい。

こんな感じで、自分なりの完全な秩序が出来上がり効率化されている食事は、すごく現代的だなぁとも感じる。忙しく働く単身者が多いこの時代に、私みたいに自分なりの一人暮らしの法則を確立してそこそこ楽しんでいる人は大勢いるだろう。本当に大変なのは恐らく、家庭を持ってからの食事だ。

この年齢になって、そういう願望を抱くというよりは、家庭を持つことのリアリティに思いを馳せることが多くなった。仮に子供を持ったとして、毎日スンドゥブで済ませるわけにはいかないだろう。

周りの友人が結婚し子供を生んでいるように、私にもその機会が訪れるかもしれないし、訪れないかもしれない。全ては風まかせで、今は目の前の原稿を進めるのみである。この作家生活も、スンドゥブで済ませる夕食も、飽きが来るまではひとまず満足である。

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